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水戸地方裁判所 昭和25年(行)24号 判決

原告 真家佐七

被告 茨城県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一当事者の申立

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十七年二月二十日附茨城県告示第八七号(同日附県報掲載)をもつて別紙目録記載の農地についてなした買収処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、無効確認の請求が認容されない場合の予備的申立として、右農地の買収処分を取り消す。との判決を求めた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求めた。

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  別紙目録記載の農地は原告が所有して来たもので、字茂内一三二三番、田六畝七歩、同所一三二八番、田一反二畝三歩、同所一三二九番、田二畝二十三歩は訴外田山藤太郎に、字霜田六五四番、田二畝一歩、同所六五六番、田六畝二十歩は訴外田山子之吉にそれぞれ賃貸し小作させて来た。そして昭和二十四年六月初頃までは訴外白河村農地委員会(以下単に村農委と称する)も、これを原告のいわゆる保有貸付地として認めていたのである。

(二)  しかるに村農委は、昭和二十四年六月七日自作農創設特別措置法第三条第一項第二号により原告が法定貸付地の面積一町一反歩を超過して貸付地を有するものとして、本件農地の買収計画を樹て買収期日を同年七月二日、縦覧期間を同年六月八日から同月十八日までと定めて公告した。

(三)  原告は右の事実を知らなかつたところ、同年九月十二日附で村農委から原告に本件土地が買収になつた旨の通知(これは買収計画が樹立された旨の通知と考えられる)があつたので、同月十七日買収削除申請という名義で異議申立をした。そこで村農委は同月二十一日これについて審議した結果、原告の異議申立を正当として容認し、前記買収計画を取り消す旨を議決し即日村農委々員長から原告に口頭でその旨の告知があつた。

(四)  ところが村農委は同月二十七日先の決定即ち本件買収計画を取り消す旨の議決を取り消し、原告の異議申立を却下する旨の議決をし、同年十月初旬頃その旨書面(同年九月三十日附白河農発第二五号)をもつて決定書謄本を添え原告に通知した。

(五)  これよりさき被告知事は、前記買収計画にもとずき、昭和二十四年九月十二日附で前記農地につき買収令書を発行し原告に交付しようとしたが、原告がその受領を拒んだので昭和二十七年二月二十日附茨城県報に掲載し(茨城県告示八七号)令書の交付にかかる公告によつて買収処分を行つたのである。

(六)  しかし右の買収処分は次の理由により違法である。

(イ) 前記昭和二十四年六月七日に、本件買収計画を樹立した際の村農委の会議は適法に構成された委員会によらずしてなされたものである。即ち同村農委の会長は、従来訴外八文字豊であつたところ、村農委は昭和二十四年五月十一日の委員会において八文字の会長たることを解任し、新に訴外原田勘次郎を会長に選任する旨の議決をしたが、その委員会々議の招集通知は八文字に対してはなされていない。又同委員会の規程により会長事故あるときに該当するとして委員中最年長者の訴外石田酉松が委員会を招集したのであるが、「会長事故あるとき」に該当する何らの事由もなかつたのであつて、つまり石田酉松は招集権限なくして右委員会を招集したものにほかならない。故に前記五月十一日の委員会の開催手続には違法あるものというべく、同会議における会長解任、新会長選任の決議はいずれも当然に無効であり、原田勘次郎は適法に会長の資格を取得したものではない。しかるに本件土地の買収計画樹立決定のなされた委員会は、原田勘次郎が会長としてこれを開催し議決したものである。従つてその買収計画は違法であり、かかる違法な計画にもとずいてなされた買収処分もまた違法である。

(ロ) 仮に右の点に違法がなく、昭和二十六年六月七日の本件買収計画が適法になされたとしても、前記(三)のように一旦原告の申し立てた異議を容認し買収計画を取り消した以上、村農委としては改めて買収計画を樹てるなら格別、先の取消決定を取り消して当初の買収計画を復活させるということは許されない。即ち再度の取消は当然無効であり、買収計画は取り消された状態にあるものといわねばならぬ。しかるに、これをなお有効に存在するものとして該計画にもとずいてなされた買収処分は結局買収計画にもとずかざる買収処分たるに帰着し、違法処分というべきである。

(ハ) さらに右の点が違法でないとしても、原告は昭和二十二年十一月中村農委の指示により原告の保有希望地として本件農地を含む田畑合計一町九畝七歩を村農委に申告し、同委員会はこれを原告の保有地とすることを承認したものである。しかるに後に至つて右保有地として承認せられた土地の中より本件土地を選んで買収計画に組み入れたのは違法であり、このような違法な瑕疵のある買収計画にもとずいてなされた買収処分もまた違法の処分というべきである。

そして前記のような事実関係である以上、本件土地の買収計画には重大且つ明白な瑕疵があるものというべく、初より当然無効のものであり、或は後に取消しにより無効に帰したものであり、これにもとずく買収処分もまた当然無効の処分である。仮にその瑕疵が重大且つ明白なものでないとしても、少くとも取消し得べき瑕疵を帯びたものといわねばならぬ。よつて本件買収処分の無効確認を求め、それが認容せられない場合の予備的申立として該買収処分の取消しを求める。

二、被告の答弁

(一)の事実については本件土地を村農委が原告の保有地として承認したとの点は否認するがその余は認める。

(二)の事実は認める。

(三)の事実は、昭和二十四年九月十二日附で本件土地の買収計画が樹立されたことを通知する趣旨の書面が村農委から原告に交付されたとの点は否認しその余は認める。

(四)(五)の事実は認める。

(六)の事実中

(イ)については、昭和二十四年五月十一日の委員会の招集通知が八文字豊に対してなされなかつたとの点、石田酉松が右委員会を招集する権限がなかつたとの点は否認する。

前記招集通知書は同委員会書記佐瀬光子が石田酉松の命により八文字豊宅に届けたものである。又当時の会長八文字豊は昭和二十三年十一月二十八日に委員会を招集開催した後、委員より再度会議の招集を請求されたにも拘らず、招集しなかつたものであり、かかる場合は同委員会規程第五条第一項にいわゆる「会長事故あるとき」に該当し、石田酉松は同委員会委員のうち最年長者として、同条項にもとずき招集権を有していた。故に昭和二十四年五月十一日の委員会の議決手続には何らの瑕疵はなく、八文字豊は適法に会長を解任され、原田勘次郎がその後任として選任されたものであり、本件土地の買収計画樹立の際の委員会の構成は適法であつた。

(ロ)については、買収計画を取消した処分を更に取消す処分が許されぬという法理はない。村農委が本件土地の買収計画を取消したのは次に述べるような理由により違法であつたから、後に更にそれを取り消したものであり、これによつて当初の買収計画は復活したものといわねばならない。なお先の取消しについては正式に通知したものではなく、後の取消しの際初めて正式に決定書謄本を添えて通知したのである。

(ハ)については、村農委が原告その他法定保有面積たる一町一反歩を超える貸付農地を有する村内地主に対し、保有希望地を申告せしめたことはあるが、それは買収手続を円滑に進行させるための便宜的の処置にすぎず、申告された農地を保有地として承認したというわけではない。

原告は前記買収計画樹立当時本件農地の外に白河村大字飯前字川前一七八番田七畝十三歩外七筆の田畑(本件農地を含め合計一町四反一畝二十七歩)を小作地として他に貸しつけていた。村農委としては、そのうち字新立五二五番のイ地目山林三反九畝十五歩のうち現況畑の二反歩、字内新田八四六番のイ地目山林現況畑一反一畝二十八歩、同番のロ同二十二歩の貸付地のあることを初め知らなかつたところ、後に小作人側の申告によつて初めて知り原告が法定保有面積以上の貸付地を有することがわかつたので、本件土地について買収計画を樹てたのである。

ところが、原告から買収削除申請が出て、保有希望地として届けておいた土地を買収するのは不当だとの申出があつたので村農委は右申出を容認したのであるが、その後その様な取扱が果して正当かどうかについて疑義を生じたので、茨城県農地部に指示を求めたところ、地主及び小作人の意見は一応参考たるに止まり委員会を拘束するものでなく、委員会は独自の見解をもつて買収すべき土地を選定すべきものであるとの指示があつた。そこで村農委は前の取消しは自作農創設特別措置法の精神を誤解したものであり、違法な取消処分であるとして、更にこれを取り消したものであり、この点について何らの違法はない。

三、右に対する原告の陳述

被告は八文字豊が委員会を招集しなかつたことをもつて会長事故あるときに該当すると主張するけれども、昭和二十四年二月六日附で村農委の委員三分の二以上である原田勘次郎外七名が連署した八文字豊の会長たることを解任する旨の決議書を作成し、当時豊に交付したので、豊は会長として執務すべきや否やにつき同月十八日附書面で茨城県知事に対し指示を仰いだところ、これに対し指示がないうちに日時を経過したため、豊としては委員会を招集しなかつたものであり故意に招集を怠つたわけではない。かかる場合には会長事故あるときに該当しないものと解すべきである(立証省略)。

三、理  由

原告居村の白河村農地委員会が昭和二十四年六月七日別紙目録記載の農地五筆に対する買収計画を樹立公告したこと、被告知事は右買収計画にもとずき昭和二十四年九月十二日附で買収令書を発行し原告に交付しようとしたが、原告がその受領を拒んだので昭和二十七年二月二十日附茨城県報に掲載し(茨城県告示八七号)令書の交付にかわる公告をなして買収処分を行つたことは当事者間に争がない。そこで原告が被告知事のなした買収処分は違法であると主張する諸点について順次判断する。

まず(六)の(イ)については白河村農地委員会規程第五条によれば同委員会の会議は会長が招集するものとし、会長死亡し又は事故があつて会議を召集することができないときは委員中年齢の最も多い者がこれを召集するものと定められていることは成立に争のない乙第八号証によつて明らかであり、昭和二十四年五月十一日の委員会は右の規定に従い会長たる八文字豊に事故があるものとし、委員中最年長者に当る者として石田酉松の招集したもので、同日の会議において会長八文字豊を解任し、後任会長として原田勘次郎を選任したものであることは当事者間に争がない。よつて石田酉松に招集権限があつたか否かについて案ずるに、成立に争のない甲第七号証、甲第十四号証、乙第八号証及び証人原田勘次郎(一部)同鈴木雅の各証言を合せ考えると、会長八文字豊は委員多数の要望にもかかわらず昭和二十四年三月二日を買収期日とする買収計画を審議すべき委員会を招集せず、買収事務が渋滞するのみならず、委員会補助員に支給すべき手当の取扱に関し不公正の点があつたので、委員十名のうち会長八文字豊と委員井坂孫衛門を除く他の八名の委員が連署して同年二月六日附で八文字豊の会長たることを解任する旨の決議文を作成し当時豊に交付したこと。(右の決議は委員会の会議においてなされたのではない)その後同年四月二十三日八文字会長を除く全委員は、前記委員会規程(乙第八号証)第五条第一号(委員が全委員の過半数の同意を得て議題を示し会議の招集を請求したときは会長において会議を招集しなければならない旨の規定)に従い八文字会長を除く全委員連署の上書面を以て八文字会長に会議の招集を請求したこと、然るに八文字会長は、前記のように解任の決議書を交付せられた以上会長として職務を行い得るやにつき疑義があり、県当局に指示を求めたところ未だに回答がないからとの理由で、右会議招集の請求に応じなかつたこと、ここにおいて委員中最年長者たる石田酉松が前記のように同年五月十一日の会議を招集するに至つたものであることが認められる。そして前記会長解任の決議書なるものが作成されたのは当時実施されていた農調法施行令第三十条の二に「市町村農地委員会其ノ事務ノ処理上会長ヲ不適当ナリト認ムルトキハ其ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトル得」とあるによつたものであることは明らかであるが、しかし委員会の会議において議決されず単に委員多数の者の決議書を交付することによつて会長の解任をなし得るわけのものではなく、又たとえ会長が適法に解任された場合においても、後任会長が就任するまで少くとも会議招集等の事務を引き続き執行すべき責務あることは当然の事理であるから、八文字会長が四月二十三日附会議招集の請求を拒否したのは何ら正当の事由に基かないものというべく、かかる場合の招集権者について前記規程に特別の定めをしていない以上、前記第五条にいわゆる「会長に事故あり会議を招集することができない場合」に準じて最年長者が招集をなし得るものといわねばならない。八文字会長が県当局に指示を求めその指示が会議招集の請求のあつた当時未だなされていなかつたとしても、それがために会議の招集をしなかつたことを正当化するものではなく、殊に成立に争のない甲第十六号証によれば、八文字会長は同年二月十一日附で委員会の書記三名に対し「後任会長が就任するまでは自分が会長の職務を行う権限を有するものであるから、執務については一切自分の指揮に従うべく、他の何人の指揮をも受けてはならない」旨書面を以て注意を与えている事実が認められるのであつて、八文字会長自身、前記会長解任決議書の効力につきどう考えていたかは別とし、少くとも後任会長が正式に就任するまでは自己に会長としての職務を行う権限と責務があることをよく自覚していたものというべく、前記県当局の指示を待つということは全く会議招集を回避する遁辞に過ぎないものと認めるのが相当である。されば石田酉松が昭和二十四年五月十一日の会議を招集したことを違法なりとする原告の主張は採用することができない。

次に五月十一日開催の委員会会議についての石田酉松の招集通知が八文字豊に対してなされたか否かの点については、証人鈴木雅の証言によれば、同委員会の書記佐瀬光子が右招集通知をその頃八文字宅に届けたことが認められる。右認定に反する証人八文字豊の証言(第二回)は採用しない。そうすれば五月十一日の委員会は招集権限を有する石田酉松の招集により適法に構成されたもので、同委員会において農地調整法施行令第三十条の二の規定に従つてなされた会長八文字豊の解任、後任会長としての原田勘次郎の選任は適法である。他の全証拠をもつてしても右認定をくつがえすことができない。してみれば適法に会長の資格を取得した原田勘次郎により招集された委員会によつて樹立された本件農地の買収計画は原告主張のような委員会構成に関する違法の点が存せず、これにもとずく買収処分も亦違法ではない。

(ロ)については原告は昭和二十四年九月十七日、村農委に対し本件農地の買収計画について「買収削除申請願」名義で異議申立をなし、委員会は同月二十一日これについて審議した結果、原告の異議申立を正当として容認し、前記買収計画を取り消す旨を議決し、即日村農委委員長から原告に口頭でその旨の告知があつたこと、その後同月二十七日にいたり村農委は本件農地の買収計画を取り消す旨の議決をさらに取り消し、原告の異議申立を却下する旨の議決をし、同年十月初旬頃その旨の決定書謄本を原告に送達したことは当事者間に争がない。ところで異議申立に対し容認又は却下の決定をしたときは農地委員会はその旨の決定書謄本を申立人に送達しなければならないことは自創法施行規則第四条の規定するところであり、異議に対する決定はこの決定書謄本の送達によつて効力を発生するものと解すべきである。そうだとすれば、村農委が前記のように一旦原告の異議を容認する旨議決しても、その旨の決定書謄本を送達しないかぎり右異議容認の決定は未だその効力を発生しておらず、後に異議を却下する旨の議決をなしその旨の決定書謄本を送達したときにはじめて原告の異議に対する決定が効力を生じたものであるから、その間異議に対する決定の取消ということを考える余地はないものといわねばならない。それ故前記異議容認の決定が効力を生じたことを前提とし、これを取り消した決定が違法であるとする原告の主張もまた採用し得ないのである。

(ハ) については、村農委は買収手続を円滑ならしめるため、昭和二十二年十一月中に法定保有面積を超える貸付農地を有する地主に対して保有希望地を申告せしめ、原告もこれについて別紙目録記載の農地外五筆合計一町九畝七歩を申告したことは当事者間に争がない。しかしながら成立に争のない乙第十号証及び証人原田勘次郎の証言によればその後原告には右申告をした農地以外に字新立五二五番のイ地目山林三反九畝十五歩のうち現況畑二反歩、字内新田八四六番のイ地目山林現況畑一反一畝二十八歩、同番のロ同二十二歩の貸付地があることがわかり、本件農地の買収計画樹立当時の原告の真実の貸付地は合計一町四反一畝二十七歩で法定保有面積を超過していたことが認められる。右の認定に反する原告本人の供述は採用しない。しかして前記保有希望地の申告はあくまで買収計画を樹立するための参考にするにすぎず委員会としては自作農たらしむべき耕作人の側の事情をも考慮した上全貸付地のうちより保有面積超過分としてどの農地を買収すべきかを自由に選択し得るのであつて、その場合自創法の趣旨に副うように留意すべきは勿論であるが、前記地主の保有希望に拘束さるべきいわれは少しもないのである。地主の方で先に申告した農地以外に貸付地を有することが判明したような場合に、地主がなお先に届け出ておいた保有希望地を買収より除外すべきことを求める権利を有するわけのものではなく、保有希望地として届けておいた農地の一部が買収計画に組み入れられたからといつて、そのことのために右買収計画が違法とさるべきものではない。この点について原告の(ハ)の主張もまた理由がない。

以上のような次第で、本件農地の買収計画並びにこれに基く買収処分には何らの違法のかどはなく、従つてこれに瑕疵のあることを前提とし、右買収処分の無効確認ないしは取消を求める原告の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 石崎政男)

(目録省略)

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